競馬場放浪記

海外競馬場を訪問した記録を書き留めていきます

ピムリコ競馬場を行く ─プリークネスステークス編─ (アメリカ/ボルチモア)

今回は、5月20日に開催されたアメリカクラシック三冠の2冠目であるプリークネスステークス(Preakness Stakes)の舞台であるピムリコ競馬場についてだ。

なんやかんやで既に半年近く経過しているため、なんとか記憶をたどりながら書き起こしていければと思う。

 

さて、この旅の始まりはフィラデルフィアからである。

フィラデルフィアといえば、かの有名なロッキーのランニングのシーン等いろいろと思い浮かぶものもあろうが、筆者がフィラデルフィアと聞いて一番に思い浮かぶのは、その治安の悪さである。しかも最近では銃火器を用いた強盗の件数が増加しているという。そして、フィラデルフィアよりも治安が悪いことで有名なのが、ピムリコ競馬場の位置するボルチモアだ。このサイトによればボルチモアはワースト3位にランクインしており、フィラデルフィアはかろうじて14位に滑り込むという始末。大丈夫か、アメリカ。

https://www.forbes.com/sites/laurabegleybloom/2023/01/31/report-ranks-americas-15-safest-and-most-dangerous-cities-for-2023/?sh=3d103a92309a

 

ボルチモアに行く際には、とりあえず自分で安全性について調べることをオススメします。

さて、まずは、フィラデルフィアからAmtrakに2時間弱の移動の後、ボルチモアの中心にあるPenn Stationという駅に到着。

その後、少しでもお金をけちって馬券代に充てようとバスを乗り継いで競馬場まで向かおうと思い、バス停まで移動することに。

と思っていたのだが、駅近くで道が広いにもかかわらず、人の姿が全然見えない(いてもせいぜいマリファナを吸っている)という異様な空気だったために、急遽Uberで向かうことに変更せざるを得ないこととなった。

駅近くの様子。曇りということもあり陰鬱な雰囲気。

というわけで、Uberでハイウェイを飛ばしてもらいスムーズにピムリコ競馬場に到着。さすがに、競馬場の近くとなると交通量も増え、停車禁止の標識なども散見された記憶がある。田舎のパチンコ店なみに巨大な駐車場もほぼ満車状態。ちなみに、競馬場の周囲は住宅街のようになっているのだが、「Today $20!」といったようなサインを掲げ、自宅の駐車場を貸すことで一儲けをたくらむ住人達も大勢いた。

 

ところで、ピムリコ競馬場は、ボルチモアの北西に位置しており、アメリカクラシック三冠競争の二つ目であるプリークネスステークスが開催されることで知られている。

アメリカの競馬場らしく、外周にダート、内周に芝の2つのコースを備えている。ダートは1周1マイル、芝は7ハロン、直線はおよそ350mで左回りのコースだ。

ピムリコ競馬場は1870年にオープンしたのだが、当時行われたディナーパーティーステークスというレースをプリークネス(Preakness)が勝利したことから、1873年にその名を冠してプリークネスステークスが創設された。ここで行われているG1はプリークネスステークスのみなのだが、その前日にはピムリコオークスとして創設された牝馬限定戦であるブラックアイドスーザンステークスというG2が開催されている。ちなみにブラックアイドスーザンとはメリーランド州の州花で、プリークネスステークス勝馬にもブラックアイドスーザンで作られた優勝レイがかけられる。そのほか、複数のG3がプリークネスステークスと合わせて開催されている。そのため、プリークネスステークス当日は、レベルの高いレースが見られるため、暇を持て余す余裕はない(もっともレースが開催されている限りレベルなど関係ないのだが...)。

 

この写真は冒頭にも貼ったが、競馬場の外観もプリークネスステークス仕様になっている。右下にみえる大きな像はセクレタリアトである。その奥にある入り口で、事前にネットで購入しておいたチケットを見せて入場する。ちなみに、当日券などはおそらく販売されておらず、あらかじめチケットを購入することが必要となる。入場券については、アメリカにはJRAのような統一的なシステムはないため、基本的に開催競馬場のホームページの指示に従うこととなるかと思う。筆者は、プリークネスステークス特設サイトのチケット購入ページから外部サイトに飛んで、ゴール板から200mほどの位置の席を$180ほどで購入した。

 

朝早くフィラデルフィアから電車に乗ったとはいえ、競馬場に到着したのはお昼時だったため、中に入ると既にたくさんの人が思い思いにお祭りを楽しんでいた。もちろんドレスコードがあるため、男性はスーツを、女性はドレスにハットを着用しており(ハットはドレスコードに含まれていないと思われる)、いかにも貴族の嗜みという雰囲気がプンプンだ。

 

プリークネスステークスの日には内馬場でライブが開催される。今年はブルーノマーズが来るほど盛り上がるライブらしく、レース中を除いて常に爆音でイケイケな音楽が流れ続ける。その盛況ぶりはすさまじく、内馬場からコースを挟んだ観客席もズンズン揺れるほどである。こちらの内馬場のチケットであれば数十ドルほどで購入できるものの、もっぱらライブを目的としたチケットであるため、レースを見る場所はほとんどない。また、写真でも明らかなとおり、こちらの方がカジュアルな恰好をした人が多かった印象だ。

内馬場の様子。正午前だからか人の姿はまばら。Tシャツの人も少なくない。

内馬場からレースを見れるのは4角のあたりに設置されているバーのみなのだが、運よく開いている場所をみつけレース前に輪乗りしているところを見ることができた。

さて、私が購入した指定席についてだが、写真のように並べられたパイプ椅子一つ一つが指定席となっている。日本で3万円弱の席があれば、空調が聞いた部屋で座り心地のよいソファーに座りながら馬場を一望することができるだろうななどと思いながら、固いパイプ椅子に腰かける。5月下旬とはいえそれなりに日差しもあり、ここに座り続けるのはなかなか体力が必要である。もっとも日傘などは好ましくないため、ハットを着用することがおすすめだ。

写真を見ればわかるが、この一番安い席に座っている人はポロシャツを着ている人などもおり、比較的カジュアルめな服装の人が多かった。2階席や3階席と内馬場の間くらいのカジュアルといえるだろうか。ちなみに、筆者もポロシャツを着ていったのだが特に服装について注意を受けることはなかった。

2階席から馬場を見るとこのような感じ。内馬場に設営されているテントの下にはテーブル席があり、ここもまた指定席である。

 

話は少し変わるが、アメリカクラシック三冠馬といえばセクレタリアトを思い浮かべる人が多いだろう。それはやはりアメリカでも同じで、セクレタリアトは伝説の馬として別格の扱いを受けている。例えば、2022年のブリーダーズカップクラシックでフライトラインが勝利した際には、ゴール時に実況が "Secretariat like"と言い、フライトラインを「セクレタリアトのような」優れた馬だと形容している。このようにセクレタリアトは未だに伝説として語り継がれているのである。

youtu.be

なぜセクレタリアトの話を出したかというと、会場にセクレタリアトの勝負服や、三冠トロフィー、三冠達成記念トロフィーなどが展示されているコーナーがあったからだ。展示コーナーには絶えず人が出入りしていたり、勝負服と記念撮影をする人がいたりと、やはりセクレタリアトの人気はすさまじいものがあるのだなあと実感した。

私自身も、実際の勝負服は、画像や映像で見るよりも深い青色だったんだなと思ったり、いつか日本馬が(日本人所有はあるものの)ケンタッキーダービーを勝つ日が来るのだろうかということを思ったりしながら、展示を満喫した。

勝負服

1973年ケンタッキーダービートロフィー

 

1973年プリークネスステークストロフィー

1973年ベルモントステークストロフィー

1973年三冠達成トロフィー

さて、話をピムリコ競馬場に戻そう。ピムリコ競馬場にはパドックがないとの記事(あるいはツイート)をどこかで見かけた記憶があるのだが、一応パドックと呼ばれるものは存在している。しかし、日本の競馬場や他のアメリカの競馬場のように、観客の面前に馬が出てきて円を周回するといった場所はなく、装鞍所とパドックが一体になっているといった方がいいかもしれない(以下、便宜上これをパドックと呼ぶ)。そして、一般客が馬が歩く姿を見ることができるのは、下の写真の通り、パドックの4分の1ほどのエリアしかない。写真奥に見えるガラス張りのエリアは馬主席に相当する限られた人間しか入ることのできない場所だ。

この写真の通り、装鞍所の周囲を馬が歩けるような作りとなっている。

 

写真でもわかる通り、パドックと観客ゾーンは柵を一枚隔てるのみで、手を伸ばせば今にも馬に触れられそうな勢いである。そうすると、当然プリークネスステークスパドックは最前列で見るしかないということで、筆者はプリークネスステークスの始まる1時間ほど前からパドックケンタッキーダービー馬であるメイジを待っていた。

この日は3着に負けてしまったものの、メイジの毛艶はぱっと見でわかるくらいテカっており、その馬体の美しさに圧倒された。この馬体が間近で見れただけでも現地まで赴いた価値がある。

 

肝心の馬券は、ブレイジングセブンスを本命にしており、最後の直線でナショナルトレジャーとの激闘の末、鼻差で敗れるという結果に終わってしまった。とはいえ、メインレースの前に穴馬券が的中していて、その払戻しで遊んだため収支はプラマイ0で収まった。

レースの詳細については以下のサイトを参考にしていただければと思う。

youtu.be

world.jra-van.jp

world.jra-van.jp

 

プリークネスステークスでは日本人の方を数回見かけるなど、日本での関心も比較的高いレースだと思われるが、ピムリコ競馬場まで行く際には一応、公共交通機関ではなくuberやレンタカーなどの手段で行かれることをお勧めしたい。

たしかに、ボルチモアもそこそこ大きな都市ではあるのだが、これといった観光名所もなくワシントンDCが近いこともあって、ホテルの数も少なめだ。また、レース前後の日程ではホテルも比較的高いように見受けられた。そのため、筆者はレース後、ボルチモアから30分ほど電車に乗り、ワシントンDCの安宿まで移動した。レース後の混雑や電車の遅延があり、ワシントンDCについたのは午後10時30分くらいだったため、レース当日の夜の宿はワシントンDCがよいように思う。フィラデルフィアでもよいのだが、その場合、日付が回るくらいの時刻に駅に到着することになると思われるからだ。

そして、最後にもう一点付け加えておくと、会場には大きなバッグを持ち込むことができないため、私のように会場近くに宿をとっていない場合にはどこかにバッグを預けておく必要がある。私は、ボルチモアのPenn-stationを起点として移動したため、駅のストレージサービスを使った。というよりも、日本のようにコインロッカーが当たり前ではないため、駅のストレージしか選択肢がないといったほうがよい。駅では、24時間以内なら$10で預けられる。レース後、駅に戻ってくる時間帯にはストレージのカウンターは閉まっているものの、そこは駅員に声をかければ荷物を持ってきてくれるため、電車が運行している限りは心配ないだろう(一応、預ける際に確認は取った方がよい)。

www.amtrak.com

 

最後に小言をつらつらと述べたが、アメリカでは日本のような利便性を期待してはいけないため、いろいろと調べる手間がかかる。しかし、アメリカクラシック三冠の二冠目であるプリークネスステークスを現地で観戦することは、そのような手間をかけたかいがあったと思わせるほど得難い経験であった。それでは、最後に数枚写真を貼って今回のブログの締めとさせていだく。